なって辞職した現内閣閣僚の一人であったひとが、自分のうちの子供のためにコンクリート建十坪の天文台をこしらえているというような実例さえあります。私たち婦人の家事を、全く封建時代のありさまに押しもどすような電力不足の原因も、しらべてみれば、こういういくつかの事実があるわけです。
私たちの日々は、きわめて畸型なやりくりの上でどうやらきょうまで廻転してきました。労働賃銀は戦前の二十七倍だのに、物価は六十五倍から七十五倍となっています。そして、政府は、日本の人民所得額は戦前の百倍と査定しているのに税率は百二十六倍になっています。このひらきを、私たちはどうやりくって来たのでしょう。ここに人間業と思われないような辛苦があるわけです。
生めよ、ふやせよと叫ばれた婦人が、きょうは、産児制限をすすめられていることについても、婦人はいいしれない屈辱を感じます。売笑婦、浮浪児が増大するばかりで、六・三制の予算は削られ、校舎が足りないのに、野天で勉強する子供らのよこで、ダンス・ホールと料理屋はどんどん建ってゆきます。
すべてこれらの日々の不合理をいきどおり、不満を抱き、解決の道を求めている人民の心の焦点を、もっとつよい恐怖や不安に向けて、政府への注目をそらさせようとして、この次の戦争の危険を挑発しているやりかたは、実に卑劣だと思います。明治のはじめから日本の資本主義は軍事的な侵略をともなって来ています。暮しが辛くなると、戦争でなにかうまいことがありそうに思って来た癖を、また利用されていいものでしょうか。日本の婦人こそ、この第二次世界戦争で一番ひどい犠牲をはらっています。婦人こそ、最も切実に生活の安定と平和のために働く必然があります。
日本の婦人たちは、団体的に力を集めて婦人、子供、ひいては全人民の幸福のためにたたかう習慣を、ちっとももって来ていません。そのために、今日、家庭一つ一つにきりはなされた条件では、電力問題一つ解決できないのに、まだやっぱり、婦人の力を、大きい日本の独立と安定のために結集する能力をあらわしていません。一人一人、一つの団体はその団体としてだけ、なんとかこの苦しさを打開する方策をたてようとして来たと見られます。
しかし、もうその時期はすぎました。過去二年あまりの経験は、私たち日本のすべての婦人を、少しは賢こくして来ました。実際的にめざめさせたと信じます。個人個人
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