は、昨今新聞に発表されて、わたしたちをびっくりさせている都民税一つを例にとってもわかります。都民税というものは二三年前は一円から五六円どまりのものでした。ところが、今度発表された率によると、平均一戸五百円以上ぐらいに計算されています。その税を、どういう懐の中から捻出してゆかなければならないかといえば、千八百円ベースあるいは二千四百円ベースの家計の中からです。通勤・通学のための交通費のおそろしいはね上り、またこの夏から一段とひどくなった諸物価のはねあがり。婦人靴下一足千何百円という暮しのなかで、大やみ屋や利権屋以外のすべての勤労人民の苦しみは言語に絶してきました。
なかでも苦しいのは婦人です。
生活の安定と向上の希望が見えて来たどころか、婦人の二重の負担――家庭と職場の労働過重は深刻になっています。電力欠乏という一つをとってみます。電力欠乏は、出勤前、つとめさき、つとめからかえってからの炊事において少なからず私たちの助けとなっていた電気コンロの使用を、ほとんど不可能にしました。交通事情は目に見えて悪化し、これまでより長い時間をかけてやっと帰宅して、これまでよりもっともっと苦労した燃料でやっと炊事をして、さてようようほっとしようとしたときは、停電だったり、たった二十燭のあかりだったりして、つぎものをするのも不便だし、本をよむのも不便です。電力不足は、税とも関係があるのだそうです。勤労所得税は五千円以上になると、賃銀から天引きされる率があんまりひどいから、鉱山に働く人々は、五千円以内に自分の賃銀をとどめて置こうとしているのだそうです。炭坑の封建的な重労働では、賃銀を五千円以上にとるだけ石炭を採掘することは、相当のがんばりがいります。食物もよけい入用です。だのに、骨を折って石炭を掘り出しても、賃銀をうんと天引きされてしまうのでは、つまり天引き分だけただ働きをすることになって、現実に命がもてません。だから石炭不足がおこり、電力不足もおこるのであって、日本の鉱山労働者がいくじなしなのではありません。
石炭なしで電力をおこす水力発電所の工事は、日本中、何ヵ所か着手されたまま完成していません。セメントがまわらないためだそうです。国内で使用するセメントの割合は、全生産額のごく少部分です。しかもその少部分のセメントが、どんな風につかわれているかといえば、一番ひどい例は、先頃問題と
前へ
次へ
全4ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング