)の影響と模倣によって書かれた。「藪の鶯」は当時二十一歳であった彼女の生活環境である上流官吏の家庭・社交の雰囲気を、まざまざと反映している。洋服で夜会にゆく上流の令嬢は、明治二十三年の国会開会をひかえて自由民権運動が抑圧され、五七〇名が「宮城三里外」に追放され、保安条令によって集会一切が禁止されるという当時の支配階級の反動政策について、何も理解していなかった。女同士の話よりも「紳士がたの話から啓発されるところが多かった」龍子は、それらの紳士がたが語る支配階級の社会観、女性観をそのまま「藪の鶯」の中に反映させている。男子を扶けて、家庭を治めそのかたわら女子にふさわしい専門の業をもしてゆくことがのぞましいという、半ば独立し、半ば屈従の範囲での女子の向上が、「藪の鶯」のかしこい女主人公の語る理想である。龍子の時代の若い上流子女はもはや民権時代の婦人が抱いた「天賦人権」の観念への道は封じられていた。その時代については「たいそう女の気風がわるくなった時代」として、軽蔑をもって見るように教育されはじめたのであった。
「藪の鶯」が封建的な尾をひいている「当世書生気質」の影響のもとに書かれて、その前年
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