ぼつかない、一人のみこみであったことが見出される。私の意志に[#「私の意志に」に傍点]よって男を愛して[#「愛して」に傍点]ゆくにしても、そのような男を選ぶ俊子の選択のよりどころはどこにおかれたのだろう。俊子は作中の女主人公に云わせている。「自分の紅総のように乱れる時々の感情をその上にも綾してくれるなつかしい男の心」にこそひかれると。「あなたなどと一緒になって、つまらなく自分の価値を世間からおとしめられるよりは、独身で、一本立ちで、可愛がるものは蔭で可愛がって、表面は一人で働いている方が、どんなに理想だかしれやしません」「女の心を脆く惹きつけることを知っていなくちゃ、女に養わせることはできませんよ。あれも男の技術ですもの」と。
 このような角度で男女が結ばれてゆくなかに、どんな新しいヒューマニティとモラルがあるというのだろう。経済能力が女にあるというだけで、男と女の立場が逆さになっただけのことだとは思われなかったのだろうか。田村俊子は、そういう省察によって、自分の文学をわずらわされることがなかったようにみえる。それがどのように濃厚な雰囲気をもっていようとも、社会生活から遮断された愛欲の
前へ 次へ
全60ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング