れわれを堕落させて碌な評論も書けない人間にしてしまったと反省するでしょう。しかし、そういう人達はそれを申しません。民主的な人間の生き方は、治安維持法が撤廃されたときいろいろな人が口やかましく申しました。横暴であってはならない、思想の立場が違ったからといって弾圧してはならない等々、しかし一寸人を怪我させても罪を与える警察があれほどの人間を殴り殺しても刑法上の罪に触れなかったのです。民主的な生き方とは、私どもが自分の正しいと信ずることのために自分がどこまでも曲ったものと闘って行くことが当然であり、自分が正しいと思う生活をつくって行くことであります。私どもが民主的に生きるならば、小林を殺した治安維持法のことをもう一遍考え直し、小林を殺した力と徹底的に闘うということ、そのためには民主的な社会、民主的な文化というもので日本の隅っこにまだたくさんいる反動的な力を打砕かなければ私どもの人生は決して自由なものになりません。私どもの自由のために私どもは闘わなければならない。それは民主的な生活を樹てる第一の条件です。それからそのためにはいろいろな困難とか自分に対する痛い目、そういうものも自分が勇気をもって突破して進んでこそ人間一人の値打が発揮されます。今日小林多喜二の話をするときには、弾圧を受けたから可哀そうだという面からでなく、その力を突破して行く勇気、人間の立派さ、そういうものを受継ぐべきであります。それで今日なお小林は生きている、死んでも死んでも死なない。結局は人間の値打、精神の値打、文学の値打だと思います。小林多喜二を記念するということはただデモをやって、歌を唱って旗でも振って歩く、そんなことだけではありません。私ども一人一人が民主的な人間であるという立場に立って、文学の仕事や日常のすべてのこともして行く、差当っては最近迫っている総選挙においてめいめいの持っている一票を民主的なように生かすことが私どもの民主的な一つの行動だと思います。[#地付き]〔一九四六年二月〕



底本:「宮本百合子全集 第十三巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年11月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房
   1952(昭和27)年5月発行
初出:同上
  (新日本文学会主催の文芸講演会での講演速記から
   1946(昭和21)年2月25日)
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年4月23日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング