憐れなはかない女の状態を、女として、女のために苦しく気の毒に思っている。その作者の真面目な心も一貫して流れている物語です。
日本の役人の文化政策は、「源氏物語」一つを例にとってもそういう社会的な背景、作品の社会的な意味をはっきり知らせて紹介しているのではありませんでした。ただ古典中の大変立派な文学で日本の誇りである、あなたがたの国に、女性によって書かれたこういう誇るべき文学があるか、という風に出されたのです。十一世紀以後の日本が封建的な社会制度をどういう風に変えて来たか、或は、どの程度までしか変える力がなかったか、その歴史の推移の中で今日紫式部の生涯はどう理解されているか、つまり日本の歴史の中で婦人の生活はどう推移して来ているかということなどには、触れずに紹介している。そうなると紫式部も「源氏物語」も、つまりは宙に浮いてしまいます。文学を、歴史やその作品の生まれた社会からきりはなして見ることは本当の文学の鑑賞の仕方、読み方でもないし、或は自分の好きか嫌いかを決める標準としても不十分です。
もう一つ別の例を考えて見ましょう。イタリーをムッソリーニのファシズムの政権が支配してから、私ど
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