り候補に立っている。そういう人が大分ある。また良人の地盤というものに支えられて立っている人々も少くない。旧政権の時代、買収でかためて来た「地盤」をそのまま利用して、今日演説会へ来るものには種を袋へ入れてやったり、胡麻をやったり、タバコ、マッチという機微をうがった餌を出している。東京ではさすがにそれをやらず、地方でやっている。私たちは婦人の政治活動の第一歩が、昔からのきたならしいやりかたで穢されることを遺憾に思わずにいられないのである。
 婦人有権者の中に何十万人の未亡人がいることだろう。息子を失った母たちが何百万いるだろうか。二度と再びこういう残酷がくりかえされないようにという婦人の願いは、今日世界にあふれている。女であるならば、戦争中ひとしずくでも涙をこぼした覚えのある女であるならば、戦争に徹頭徹尾反対した政党があったという事実を意味ふかくかえりみるのではないだろうか。その事実のうちに、千万言にまさる道義が存在することを今にして会得するであろうと信じる。[#地付き]〔一九四六年四月〕



底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年5月20日初版発行
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