おもひ出づるに高く鳴るかな
いつしかとえせ幸になづさひて
あらん心とわれ思はねど
人妻は七年六とせいとなまみ
一字もつけずわが思ふこと
飽くをもて恋の終りと思ひしに
此さびしさも恋のつゞきぞ
恋といふ身に沁むことを正月の
七日ばかりは思はずもがな
[#ここで字下げ終わり]
晶子の歌といえば、「やは肌の」や「鎌倉や」などが表面的な斬新さでもてはやされ、特徴づけられているけれども、「御仏は美男におはす夏木立かな」というような興味で世間から彼女の芸術が期待され、その期待に沿って行かなければならなかったところに、却って芸術家としての晶子の真に立派な成熟をおさえた悲劇がかくされているようにも考えられる。
晶子は婦人の芸術家としての長い生涯を実に旺盛に力をつくして生きた。作品も多産であるし、母として十二人の子たちを産み、そだてた。文筆で生活をたててゆく辛苦もひとかたならなかった。四十歳前後には社会時評、婦人時評その他の評論をもかいて『太陽』に発表し、「男子を瞠若たらしめる」と評された。
今日からみれば、それらの評論はまだ男の所謂評論調を
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