め描いたのであった。
殆どあらゆる作品に、何かの形で破恋を描いた一葉も、恋愛そのものについては不確定な態度で、心の奥ではやはり昔ながらに恋はこわい執着、さけがたい人間の迷いという考えかたをかなりつよくもっていたらしい。一葉としてはそういう心の角度から、周囲の『文学界』の人たちが、すぐ世間並の恋のいきさつに入らない接触を保っていてくれるのが或るたのしさであったように思われる。この点でも、一葉とロマンティストたちの交渉はなかなか面白くて、云わば一葉のむかし気質と『文学界』の新しからんとする意図とが、それぞれ反対のところから出て来ながら或るところで一つにとけ合った形なのであった。
『みだれ髪』の巻頭の三つの歌をみても感じられるとおり、晶子は、一葉より六つ年が下であるというちがいばかりでない天性の情熱の相異と、芸術とともに燃え立つ恋愛から結婚への具体的な飛躍を経て、人間の美として精神に添う肉体の輝きを肯定したのは、日本におけるロマンティシズムの一推進として甚だ興味がある。
山田美妙が小説「胡蝶」の插画に裸体の美女をのせたことで囂々たる論議をまきおこしたときから十年余を経た日清戦争後には、日
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