いる。一葉の「たけくらべ」以後の成長と発展とはこのような点からみても非常な困難におかれていたと思う。
題材的に「大つごもり」「にごりえ」「たけくらべ」と移って来た一葉が、初期の月並な和文脈からこの人らしい抑揚の雅俗折衷の文体へと変化しつつ、猶口語の文章にうつり行かなかったところには、作家としての深い必然があったと考えられる。二十九年に終った一葉の二十五歳の生涯を貫いた女としての情感は、外からうけた教養が開化期以後の反動時代で和文系統であったというだけでなく、情緒の構成そのものが、半ば解かれたる如くであって猶二つの脚はしっかりと封建の慣習にとらえられているところからの身もだえ、訴えの曲線をもっている。二つの手二つの脚をのびのびと動かしてうるさいものを払いのけてゆく女の生きかたとはまるで異った抑制と、その抑制をついに溢れ破らんとする力との苦しいかね合いにおかれていて、その情感の綿々たるリズムは、烈しければ烈しいほど、雅俗折衷の調《しら》べにこめ得る格調と曲線とを己《おのれ》の声としなければならない。
口語というものには近代の論理性があって、文章の構成は立体建築に似ている。心理の追究は可
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