抒情詩のこころと形とが悲しいばかりまざまざと語っている。藤村は、何とうちふるえるような情感のたかまりで、若い男と女のやさしい心の恋をうたっていることだろう。同時に、それらの調子、様式は「お小夜」の黄楊《つげ》の小櫛の古さがまだまだおもくきついなかから、重きが故に愈々その声の響きは遠く高くとあこがれる。そのような当時のロマンティシズムの日本らしい特徴は、同人たちの一葉をかこむ気分にも十分にじみ出していただろうと思う。
一葉が当時の婦人として例外であった作家でしかもその人がらが並々でないこと。一つ家に母や妹はいても、あるじは若い女性の一葉であるという珍しい空気。しかも、その家は若いロマンティストたちの反撥をそそる権門富家ではなくて、親しみやすくつつましい市井の住居で、若い女の一葉が筆ひとつにたよって此世を過してゆこうとしている境遇も、その人々の心をひきつけてゆくものであったにちがいない。
文学論を文学論として一葉は何一つかきとどめていず、自分としてもそういう形でうけとってはいなかったらしいけれども、話の中から一葉が直感的に感覚としてうけた新鮮な刺激、文学的亢奮は決して浅いものでなかった
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