る秀才を同好の間に紹介し」ようというのが眼目の『文学界』に一つ二つの短篇を発表したとて、愈々苦しい家計が何となろう。母の着物も売りつくした。「友といへど心に隔てある貴婦人の陪従して、をかしからぬに笑ひおもしろからねど喜ばねばならぬ」萩の舎の日常は、益々一葉にとっていとわしいものとなった。これまでのいきさつから云えば、一葉が塾のあとをつぐ筈の中島歌子の性格や生活にも、おのずとひらけた一葉の目にあまるところもあるようになった。母の瀧子が歎きに歎いて「汝が志弱くたてたる心なきから、かく成り行きぬと責め給ふ」と日記の文章でよめば、みやびいているようだけれども、二十一歳の一葉の胸へじかにこたえた言葉できけば、お前がほんとに意久地なしで、ハキハキしないから、親子三人この始末じゃないか、という次第である。
心も物もせっぱつまりきった七月になって一葉は遂に一つの決心をかためた。それは、これまでのように小説でたべてゆこうという考えをすっぱりとすてて、心機一転、糊口のために商売をはじめることにきめたのである。
その前後、小説の註文が全くなかったというのではなくて二十六年の二月には金港堂(『都の花』出版
前へ
次へ
全369ページ中49ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング