もかく美男だった、という点から観察するひともある。その時分かいたものの中にある描写から察しても、なるほど一葉の心におかれていた美しい男の風貌の標準は、ごくありふれた内容で、つまり彼女のかく美文めいた趣味であったことは推察される。けれども、一週間ほどして二度目にあったときの日記に、
「うしは先の日まみえまゐらせたるより今日は又親しさまさりて世に有難き人かなとぞ思ひ寄りぬ」とかきしるした動機には、桃水の容貌ばかりでなく、一葉の若い心情をつよくとらえたものがあったと考えられる。
二年ごしひとりで苦しみながらあてもなく焦立っていた自分の小説について、桃水が新聞向きの作風ではないからと一葉の気質を鑑定した上、紅葉に紹介しようと云ってくれたことも、それこそが眼目で紹介されて来ている一葉にとって前途のひらけてゆくうれしさであったろう。母と妹とが、生活の上では彼女ひとりにとりすがって、息をこらし気配をうかがっているような負担を夜昼感じている一葉にとって、青年同士と思って語り合おうと云ってくれる男のひとのいることは、どんなにか頼もしく感じられただろう。
だが、もし半井桃水という男が、同じ親切を示しな
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