来た半生の善意が、このような破綻を経験しなければならないとは思い初めなかった、その歎きが、思いあがりとして歎かれる。従って「くれない」の作者の精神の低さというならば、寧ろこういうおくれた社会の歴史の矛盾相剋が反映している作品の世界に、作者がきびしく足どりのつよい客観的な省察をもって触れてゆけないで、明子の思いあがりという風な概括でしか表現していない、そのつましさ、女らしさにこそ、云われるべきである。この「くれない」は女を主人公としたけれども、真実男が現代社会で人間たり男たるにふさわしい生きようをしようと意欲するとき、両性の問題、結婚生活というものの与える問題で、書かれるべき一冊の「くれない」もないのだろうか。この独特なとざしのきつい日本の社会の仕くみの中で、何ごとかを求めて生きて来た男性で、ましてや芸術に携わる男性で、現代の歴史のむごさを我が肌に痛感しなかった人が在るだろうか。ストリンドベリーの亜流が出現せず、ロマン・ローランの末流として擡頭するひともないのは、女性との関係では、或る程度まで思うままにふるまって来て、そのふるまいを理窟づけ、自分を何とか落つかせて来られた日本の旧いおくれ
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