ぐいと押し出されて行く十三の少女の、素直で忍耐づよい姿と、同時に、どことも云えずそのリアリスティックな作品全体に溢れている清純な人間らしい向上の熱意が、読者を感動させた。当時にありふれた所謂意識でかかれた小説ではなくて、「キャラメル工場から」は勤労生活の中にある人間、女性の思いからあらわれた生活の小説であった。
「キャラメル工場から」にかかれたように、窪川稲子(佐多)は少女時代から働きつづけた。チャンそばやにお目見得に行った小さい娘の手にじゃが薯をむく庖丁がもちきれなかった。「大きくなったら、またおいで」と片言で云われた。次にやられたのは或る料亭の奥の小間使いであった。そこをやめてから祖母と病身な叔母との暮しで「いっそお半玉《しゃく》になってしまおうと思う」と決心するほど窮迫した。やがて父の許で、自身野ばなしにされたように暮したが、十七で再び東京に現れて彼女は以前小間使として働いた料亭の女中になった。それから、ある輸入商兼書店につとめ、その三年間の生活は、彼女にすきな文学書をよませ、音楽会へ行かせもしたが、彼女をその単調な反覆で絶望させ、自殺したい思いをさせた。中流的な結婚をした。それ
前へ 次へ
全369ページ中233ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング