、「ある盛り場のちっぽけなチャンそば屋へお目見得に行った。」
「ある日郷里の学校の先生から手紙が来た。誰かから何とか学資を出して貰うように工面して――大したことでもないのだから――小学校だけは卒業する方がよかろう、そんなことが書いてあった。」附箋つきで、ひろ子が住みこんでいたチャンそばやへその手紙が来たとき、彼女は「それをつかんだまゝ便所に入った。彼女はそれをよみかえした。暗くてはっきりよめなかった。暗い便所の中で用も足さずしゃがみ腰になって彼女は泣いた。」
一九二九年(昭和四年)二月の『プロレタリア芸術』に、窪川いね子という女性が「キャラメル工場から」という小説を出した。
四十枚ほどの短い小説であったが、「キャラメル工場から」は前年『施療室にて』という短篇集を出した平林たい子の作風とは全く異っていたし、又新感覚派の傾向のつよい中本たか子の作品ともちがった。「キャラメル工場から」には、アナーキスティックで濃厚な反抗がなく、又頭脳的に、都会風に色どられた階級意識がつよく出ているというのでもなかった。
おちぶれた、気まぐれな小市民である父親の思いつきのままに、生活とたたかう場面にぐい
前へ
次へ
全369ページ中232ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング