で、二分おくれても、赤煉瓦の工場の入口からしめ出された。ひろ子の「電車賃は家内中かき集めた銅貨だった」けれど。そして「遅れた彼女はその日一日を嫌応なしに休ませられた。彼女たちの僅な日給では遅刻の分をひくのが面倒だったから。」
「まだ電燈のついている電車は、印袢纏や菜葉服で一杯だった。皆寒さに抗うように赤い顔をしていた。味噌汁をかきこみざま飛んで来るので、電車の薄暗い電燈の下には彼等の台所の匂いさえするようであった。
 ひろ子は大人の足の間から割り込んだ。彼女も同じ労働者であった。か弱い小さな労働者、馬にくわれる一本の草のような」ひろ子の小ささに目をつけて言葉をかける労働者は「親しげな顔付をした。その車内では周囲の痛ましげな眼が一斉に彼女の姿にそゝがれはしなかった。彼等にとってはそれが自分たち自身のことであり、彼女の姿は彼等の子供達の姿であったから。」
 ひろ子たちの工場での仕事室は川に面した、終日陽の当らない、暗い室であった。「窓からは空樽をつんだ舟やごみ舟など始終のろ/\と動いているどぶ臭い川をへだてゝ、向岸の家のごた/\した裏側が見えていた。」そこに立ててある「広告板には一日中陽が
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