ある。
 作家平林たい子の一つの特色は「施療室にて」一巻を貫き、そして現在につづいている根づよい自他に対する抗議の資質である。そして「出札口」その他の作品に店の宝石や釣銭やのちょろまかしという行為で表現された勤労者の現代社会への抗議の様式が、時をへだててちがった形で作品の中に反復されることに読者は無関心であり得ないと思う。なぜなら、勤労階級の抗議は、そういう盗み、ちょろまかしなどによってあらわされるものでないことを人々は歴史によって学んでいるのであるから。

     八、合わせ鏡
          一九二六―一九三三(昭和初頭)

「ひろ子はいつものように弟の寝ている蒲団の裾をまくりあげた隙間で、朝飯をたべた。あお黒い小さな顔がまだ眠そうに腫れていた。台所では祖母がお釜を前に、明りにすかすようにして弁当をつめていた。明けがたの寒さが手を動かしても身体中にしみた。」
「ひろ子は眉の間を吊りあげてやけに御飯をふう/\吹いていたが、やがて一膳終るとそゝくさと立ち上った。」そして、火鉢の引出しから電車賃を出した。小さいひろ子は、あつい御飯をいそいでたべられないのに、会社の門限はきっちり七時
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