「邦子」のなかで作者が語っている数行はこの時期の作者の現実にふれていると思う。「邦子」において志賀直哉はある芸術家の生活を描き、無事平穏な日常生活が文学者である主人公を苦しめている状態を描いた。「それが自分を成長さすものならば」という気持で「自然、何か異常な事柄を望むようになっていた」と。これは、当時のこの作家の或る感情を語っているであろう。異常なことを求めても、作中の文学者と同様に、志賀直哉は、擡頭して来たプロレタリア文学の新しい波を身にかぶるような経済的、教養的な必然は持っていなかったから、その人の環境らしい対象の恋愛に動いた。「山科の記憶」「痴情」「晩秋瑣事」等、そこに東京をはなれた京都暮しの時代の一つの世界が描きあらわされた。
「暗夜行路」と前後して「多情仏心」を完結した里見※[#「弓へん+享」、第3水準1−84−22]は、有島武郎の兄弟であっても、武郎とは非常にちがった常識と古さに自分のモラルの土台をかため、自身のまごころ[#「まごころ」に傍点]道にそろそろ安住しはじめた形であった。室生犀星の「庭を作る人」の出たのもこの前後の年代であり、貧しき詩人として出発した犀星は、流行作
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