準を高めた新島襄の存在もその重大な先駆をなしたのであるし、中島、福田女史たちの動きも、ことごとくその土壤となっているのである。「藪の鶯」の女主人公である悧溌な浪子が、そういう歴史の脈動を評価する力を、反動期に入ったその新時代的教養からちっとも与えられていないで、至極皮相に「明治五六年頃には女の風俗が大そうわるくなって」と周囲から注ぎこまれ、おそわったとおりに片づけているところは強い関心をそそられる。廃娼運動が全国におこったのは明治五年であったし、男女交際の自由がとなえられてもいたけれども、それは特殊な上流の一部に限られていて、庶民暮しをしている当時の書生の恋愛の対象はまだ芸者だの娼妓しかなかったその時分のうすぐらい日本の現実は「当世書生気質」に描き出されている。
 その上流の開化、欧風教育そのものでさえ、どんなに矛盾し、錯雑したものであったかということは花圃の追懐談にもその情景を溢れさせている。
 花圃などは、当時の進歩的な大官の令嬢としてベッドで寝起きし、洋書を学び、洋装をして舞踏会にも出席し、家庭での男女交際ものびのびと行われていたらしい。男の友達から啓発されたことが多かったと語ら
前へ 次へ
全369ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング