婦人と文学の話
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)帝国[#「帝国」に×傍点、伏字を起こした文字]主義
−−
われわれの『文学新聞』が、今度「婦人欄」を特別に設け、そこへ面白いためになる婦人と文学とに関する種々な記事を精力的にのせることになったのは、実にうれしい。プロレタリア文学に、女のプロレタリア文学、男のプロレタリア文学というような区別があるはずがない。プロレタリア・農民としての女、男の全生活が階級としての芸術的表現をとおして、プロレタリア文学のなかにこめられているのだ。
けれども、現実の問題として見るとき、日本におけるプロレタリア・農民の婦人のこまごまとした本気な日常闘争の経験は、果して十分日本のプロレタリア文学の中に描きつくされているだろうか?
工場閉鎖、賃銀不払、労働強化、三百万の失業と農業恐慌――資本家地主は遂に満蒙で帝国[#「帝国」に×傍点、伏字を起こした文字]主義侵略戦争[#「侵略戦争」に×傍点]を始め、飢えた勤労大衆の血[#「血」に×傍点]で、植民地再分割[#「分割」に×傍点]とソヴェト同盟干渉戦争[#「干渉戦争」に×傍点]に着手している。プロレタリア・農民の女の生活はこういう状態の下で、切ない男の生活より更に切ない最悪の条件におかれている。資本主義が行詰ると、女と子供とを一層むごく搾りはじめる。男の半分以下の賃銀でこき使うばかりでない。帝国[#「帝国」に×傍点]主義戦争[#「戦争」に×傍点]に働き手である夫や兄を奪われ、一番惨めな境遇に立つのはプロレタリア・農民の女だ。しかも資本家地主の狡さ極まりないことには、こうして搾りつけるに便利なようにと、処女会だの御用雑誌だのをつかって、プロレタリア・農民の女の文化の程度を何処までも奴隷的な低さに止めて置こうとする。あらゆる職場で、資本主義社会の髪も抜け落ちる程、婦人を搾取しながら、いざとなると「何だ女のくせに生意気な! おとなしくしろ!」と、どやしつける。――どやされても引込まなくなったのが、今日のプロレタリア・農民の婦人大衆だ! 婦人の階級闘争の場面は、決してストライキ、農村争議だけには限られていない。毎日の台所に、出産の床に、八百屋で買う一銭の葱の中にまでしみとおっている。プロレタリア文学はくまなく、此等の現実
次へ
全3ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング