のを考えて、いろいろの悲劇をもかえってひき起すような工合だが、今、二十前後の若い女は大へん違って友愛的な恋愛は沢山するだろうが、結婚などについては現実的に考えていて、若い男なんかより経済的安定のある中年の男を結婚の相手として選ぶ傾きにあるといっておられました。菊池さんはその今日の社会的傾向を肯定しておられます。そうして菊池さんの小説はその肯定の上に立って若い女その他を書いていると見られるのですが、面白いことには菊池さんは、芸術的把握の中でそのようにいっている菊池さんを、菊池さんの現実的な生活のさまざまの内容と思い合わせてニヤニヤと笑っている女のあることを見落しておられるし、また若い女の中にそういう若い女の考え方とは違った種類の若い女もいるということを逸しておられます。若い女ばかりでなく、若い男の人にとっても今日の社会の現実がそのようなものだという事実では苦しんでもいるし、疑問も持っているし、簡単に肯定はしていないと思いますネ。若い男にとって、少し気のきいた若い娘は自分と遊ぶだけでイザとなると金を持った薄禿のところへ行ってしまうというのだったら、こういう世の中はどういうものだろうと思わずにはいられますまい。案外そういう若い女の人は逆にある程度社会的安定の基礎のためには中年男との経済的立場に立っての結合を方便として、本当には、他のいってみれば若い男との生活を見透しているのかも知れないし、現実は複雑なものでしょう。ここが面白いと思うのですネ。
 ここに新しい文学における女の内容が現れてきていると思うんです。たとえば室生さんがある小説の中で丸ビルの附近の朝の景色を美しく描写して、女の事務員の姿をそこに点出しておられましたが、そういう描写が、こういう作家にあっては非常に絵画的効果にだけ終っているということ、つまり、他の面で鋭く目に映っている物の形の奥にまで突き入った洞察をしている作家でもその事務員の朝の十分眠り足りたスガスガしげな姿というようなところで描写を止め、生活的なにじみというか女事務員の社会生活の中で身につけてきている特徴などにまで迫って、身振りにしろ言葉つきにしろ、捕えてはいきません。私たちはこういう場合にでも描かれようとして描かれぬまま残された女のある面を感じるわけです」
問「新しい女性を描き得る作家としてはどんな人に期待を持ちますか」
答「どういう作家が女を、つまり社会的なつながり[#「つながり」に傍点]において全面的に書くか、ということは作家の社会性の問題に結びつけられて理解さるべきものなのでしょうね。昨今は若いインテリゲンチア作家が積極性を自身の文学の中に求めておられるしするから、さまざまの意味で作家の社会性は拡大されてゆくでしょう。従ってだんだん女についても表面的な現象を、しかも主観的に自分の好みでとり上げて書いてきた傾向は、もっと客観的な広い関係で理解されるようになってくるでしょうが、私はなんといっても、今日のわれわれの生活の複雑な関係の中に歴史の前進するモメントをとらえて男と女との関係にしろ、女独特の問題の性質にしろ描写してゆくことのできる新しい社会観、つまり目先では一応従来のものの考え方をする男にとっては不便な、あるいは愉快でない女の感情あるいは行動をも将来の社会的な見透しの方向で観察をし、かつ批判する力をもった作家が女のさまざまな現実的タイプをかき得るだろうと思います。
 プロレタリア作家が、現在ではまだいろいろの制約もあり、技術上の未発展の部分もあるが、当然歴史的にみて、その可能性を持っているのだし、その可能性を自分の文学に具体化する責任を持っている訳だろうと思います。この点になれば私は男の作家だけの問題とは考えていないし、ある点から自分たちの責任だという考えを持っています。書けというのではなくて、自分が作家である以上書かなければならないという風に考えますからネ」
問「結局、新しいプロレタリア作家に期待されるわけですネ。では読者としてどんな作家の描く女性に興味を持たれますか」
答「好き嫌いということになると、大へんに内容が綜合的なものだからなかなか難しいけれど、どの作家が女を書くだろうかといえば、そうネ、菊池寛さんなんかがさっきいったような微妙な限界性の範囲内ではいきいきと金持の娘や奥さんや事務員などを書かれるだろうと思うし、谷崎さんのナオミは一つの誇張された女のタイプではあるが、好きともいえないでねえ……(考えて)……こんなに好きな女が思い出せないということも文学の上の一つの問題ですがネ。私どもは文学は現実のトッパナを行っているように考えているけれども案外おくれているのがこれでも判りますネ。だって頭に浮ぶものは古典的作家の描いた女が多いのだもの。今、やっと思ったんですが、ブルジョア文学の中でも一般的に性格
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