都合のよいように、面白いように、あるいは愛し得るように、軽蔑できるように書いているのであって、どういう意味ででもあんまり男に都合の悪い女は書かれていないようだ。ところが実際われわれの生活のさまざまの葛藤、情熱というものをつきつめて行くと、現在の日本のような社会の中では現在あるままの社会生活で女との関係を考えている男の人たちにとって、あんまり都合よくないようなものが、案外いきいきした、つまり歴史を前に押し出すような性質を持った女の感情であり、行為である場合が多いので、困ったものだネ、と笑ったことです」
問「男の作家に書けないといった点は、たとえばどんな点でしょうか」
答「女を書く書かぬということも究極は抽象化された女というものはない訳ですから、この点を現実の中で男の作家たちがどれだけつかみ理解し得るか、得ないかということになるのじゃないでしょうか。何といっても今の社会の組み立てが日本などでは強い封建制の上にあるから、女は家庭の中でやっぱり男との関係だけでいえば、圧迫する方でなくて、される側に立っているから、そういう女のさまざまの感情、強さも弱さも偽も真もいってみればただ面白いとか可憐だとかいう以上のなかなか油のきついものだから、男の作家が日本の中で育った女に対して、まず男としての感じ方を伝統的に持っている人々が、冷淡な傍観的態度でなくて女のそういう現実に突き入ることはそう容易なことではないだろうと思われます。
だから女の気持でみると、日本の現在の偉れた作家たちは女を書いているのだけれども、ある点書いていないという結論になる。ある人は女の肉体を鑑賞物として美醜こもごもうがって書いているであろうし、ある人は恋愛的な場面で発露する女というものを書いているのですが、男と女との関係全体をひっくるめて今日の社会的な生活そのものをもっと合理的な、男にとっても自分たち女にとっても住みよいところにして行こうとする女のきわめて日常的な現実的な要求というものは、まだ少くとも今日の大多数の男の作家にとっては芸術的に表現されていないと思います」
問「男性作家が現代の進歩的女性を適切に表現し切っていないという、何か面白い例をあげて下さい」
答「こないだ、何かで、菊池さんが女のことについての意見で、現在日本の三十代の女はロマンティストで人道主義で、たとえば結婚についても、恋愛から結婚という風なも
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