まるで飢えた山犬のようにして、掻っ込んだのである。
見ているうちに、私はあさましくなってしまった。
獣より情ない姿だ。こんな哀れな人間に生れるくらいなら、猫にでも生れた方がどんなに幸福だったか分らない。彼にとっても、また彼の周囲の者にとっても、遙かにその方がよかったのだと私は真面目に考えた。そして、見ているに忍びなくなって、後を向いてまた胡桃を挽き出した。パチパチいって破れる殻から、薄黄色い果を出しては、挽き臼でつぶすのである。
暫くすると、善馬鹿は食べてしまって、立ち上ったらしい気配がした。そして、よろけながら両手に空の破《われ》茶碗や丼を下げて、また耕地の方へ出て行く後姿を、私は、臼の柄につかまりながら、何ともいえない心持で見送っていた。秋めいた、穏やかな午後の日射しが、彼の蓬々頭の上に静かに漂っていた。
暑さのためと、気苦労で、養生の行き届かない新さんの病気は、時候の変り目になってからドッと悪くなった。
体中が腫《むく》んだので、立っていることさえ苦しいほどなのを、家にいればおふくろの厭味を聞かなければならないのが辛さに、跛《びっこ》を引き引きあてどもなく歩いて、林の中
前へ
次へ
全123ページ中97ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング