好《え》え気になって、ほざいてけつかんから恐ろしいや」
「そうともよ、好え気になれんのも娑婆にいる間だけのこった、なあ新さん。死んだ後のこと、俺らが知るもんけ!
あとは野となれやま……となーれ。
ヤ、シッチョイサ!
か。
どうだ巧かっぺえ」
皆は破《わ》れるように喝采した。新さんは妙な笑い方をした。
「面白えなあ。踊りてえなあ。ちゃん!」
甚助の子が、よろけながら立ち上ったとき、向うから、これも微酔《ほろよい》の善馬鹿が来かかった。
これで、すっかり元のように賑やかになってしまった。
彼は皆に呼ばれて、また二三杯のまされた。
「おめえ俺らと仲よしだんなあ。善! 踊んねえか? 面白えぞ」
甚助の子は、善馬鹿の耳朶を引っぱりながら、床几《えんだい》の周囲《まわり》を引っぱり廻した。
「こりゃうめえ、さ、踊れ。また酒え飲ますぞ」
「踊れよ、相手が好えや。ハハハハハハ」
「そら踊った、踊った!」
単純な頭を、酒でめちゃめちゃにされた甚助の子は、気違いのようになっていた。
肌脱ぎになり、両手に草履を履くと、善馬鹿の体中を叩きながら、訳の分らないことを叫んで踊り出した。
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