えなければならない、悲しい思いが深く根差したのである。
あの男の子等は、今まで、その両親が誰のために働いているのを見ていたのか?
彼等の収穫を待ちかねて、何の思い遣りも、容赦もなく米の俵を運び去ってしまうのは如何なる人種であるのか?
実世間のことを少しずつ見聞して、大人の生活が分りかけて来た彼等男の子等の胸は、両親に対する同情と、常に自分等よりもずっとよけいな衣類や食物を持っていて、異った様子をし、異った言葉で話す者共へ対しての憎悪と猜疑《さいぎ》で充ち満ちていたのであろう。
俺らが大事の両親に辛い思いをさせ涙をこぼさせるのは、あのいつでもその耳触りの好い声を出して、スベスベした着物を着て、多勢の者にチヤホヤ云われている者共ではないか?
親切らしい言葉の裏には伏兵のあることを、いつとはなく半分直覚的に注入され、「町の人あ油断がなんねえぞ」と云われ云われしている彼等であろうもの、いきなり私が現れて、優しい言葉を掛けたからとて私を信じ得る筈はない。
彼等の頭には先ず第一に僻《ひが》みが閃いた。
「またうめえこと云ってけつかる!」
で、一時も早くこの小づらの憎い侵入者を駆逐する
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