いもし、同情もし、或る共鳴は感じていても、決して同じ者共とはなり得ないのである。
それなら、私がその同じ流れの中に漂って見たらどうか! なかなか自分の溺れないために人のことなどは見てもいられなくなる。
岸から竹を延している今までにも私はあきたらなくなって来たと共に、一緒に濁水を浴び、苦しまぎれに引っ掻きもがいて、手も足も出なくなって終ってしまうのは、ただ一度ほかない私の生涯にあまり惨めである。
で、私はほんとうに、謙譲になり丁寧になって、而も今の不平や恐れをなくするにはどうしたなら好いのか? 私は情ないような心持になってしまった。
どこかで、
「お前の花園は一体どうしたんだ? もうそろそろ芽生えぐらい生えそうなもんだになあ!」
と嘲笑《わら》われているような気もする。
けれども、私は諦めの悪い人間だ。どうしても、ものを「あきらめ」て静かに落付いて、次《つい》ではそれも忘れてしまうということが出来ない。
それ故「世の中というものは、どうせそんなものさ!」と落付いてしまうことが出来ないので、いつでも不平や、悲しい思いや、苦しい思いやをして、「賢明な人々」からは妙な同情を受けているのである。
今も私は「何でもない、自分が小さいからだけのことだ!」と諦めが着かない。
いかにも私は小っぽけな細い声を出して、何かゴトゴトいっているに過ぎない者ではあるけれども、もう直ぐの所に大変好いことがあるのに、またその好いことも捜し手を待ちかねているのに、見つけられないでいるのじゃあるまいかということがしきりに感じられる。ほんとに、ただ感じられているばかりなその一重向うの何ものかを求めようとして、私は目を見張ったり、手を動かしたり、ジーッと耳をすませたりしているのである。
かようなまた新しく湧き出した望みに攻められている間に、村はまた貧乏に戻る前の馬鹿らしい景気よさに賑わっていた。
村端れに酒屋が一軒ある。今まではさほど繁昌も出来なかったのが、このごろになってから急に客が殖えた。夕方になると野良から帰った百姓達の中心になって、一升と諢名《あだな》のある桶屋だの甚助親子だのが集って来た。
店先に床几《えんだい》を持ち出して、蚊燻《かいぶ》しをしながら唄ったり踊ったりの陽気さに、近所の女子供まで涼みがてらその囲りに立って見物をする。
善馬鹿は、いつも皆の酒の肴に悪巫山戯《わるふざけ》をされていた。
その晩もいつものように酒屋は大騒ぎであった。酒の香りに集って来る蚊をバタバタ団扇《うちわ》で叩きながら床几に寝ころんでいる者の中には新さんも珍らしく混っている。
皆が、漬物をつまんだり、盃を廻したりしながら、町の婦人達の悪口や愚にもつかない戯言《たわごと》を云ってワヤワヤしている傍に、新さんは黙って、蚊が一匹溺れている自分の盃を見ていた。
「や、ほんに新さんがいたんだんなあ。あまりおとなしいでいんのー忘れてしまったわえ、さ! 一杯明けな。酔えば天地あ広《ひれ》えもんにならあ」
新さんは酒を飲もうともしなかった。
けれども、今まで放って置いた気の毒さも混って、皆は急に新さんにいろいろの言葉をかけた。
あんな化物豆なんか心配しないで、自分は自分でさっさと遊ぶなり、ほかへ出るなりしろと力をつけながら、あの、子を子とも思わない鬼婆なんかぶんなげてやれとかなんとか罵った。
甚助などは拳骨を振り廻しながら、
「お前さえウンと云や己が黙っちゃ置かねえ」
とまで云った。
チビリチビリと酒をなめながら、皆の云うことを聞いていた一升は話の絶《き》れ間《ま》を待って、重々しく云い出した。
「一体《いってえ》なあ新さん。お前《めえ》はあげえなおふくろー神様か仏様あみたえに思ってんが、第一《でえいち》のまちげえだぞ。お前のおっかにしろ、どいつのおふくろにしろ皆女子さ。どこの世界《せけえ》だて女子にちげえはねえだ。悪《われ》えこったってすらあな。邪魔んなりゃお前をぼん出そうともすらあな!」
「そらそうだべ。けんどあげえなこって親子喧嘩しちゃ、親父《ちゃん》にすまねえ。俺らせえ黙ってりゃすむこんだかんなあ。俺らそげなことをする気はねえ」
「だからお前は仏性《ほとけしょう》よ、めったにねえ生れつきだんなあ。死んだ親父《ちゃん》の云った通りのことー云ってんぞ」
「そいから見りゃお前は、極道者《ごくどうもん》だんなあ、一升」
傍から甚助が口を入れた。
「ほんによ。こげえな極道者の行く先あ大方定ってら」
「お前等今頃んなって、そげえなことほざくんか? のれえなあ。見ろ、俺らのそばにゃもうちゃんと地獄がひっついてら。ほかへ行ぎようもねえじゃねえかあ!」
と一升は、自分のそばに坐って漬物を食おうとしている酌婦上りの女房をさした。
「ハハハハハハ。ハハハハハハ」
「
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