えなければならない、悲しい思いが深く根差したのである。
あの男の子等は、今まで、その両親が誰のために働いているのを見ていたのか?
彼等の収穫を待ちかねて、何の思い遣りも、容赦もなく米の俵を運び去ってしまうのは如何なる人種であるのか?
実世間のことを少しずつ見聞して、大人の生活が分りかけて来た彼等男の子等の胸は、両親に対する同情と、常に自分等よりもずっとよけいな衣類や食物を持っていて、異った様子をし、異った言葉で話す者共へ対しての憎悪と猜疑《さいぎ》で充ち満ちていたのであろう。
俺らが大事の両親に辛い思いをさせ涙をこぼさせるのは、あのいつでもその耳触りの好い声を出して、スベスベした着物を着て、多勢の者にチヤホヤ云われている者共ではないか?
親切らしい言葉の裏には伏兵のあることを、いつとはなく半分直覚的に注入され、「町の人あ油断がなんねえぞ」と云われ云われしている彼等であろうもの、いきなり私が現れて、優しい言葉を掛けたからとて私を信じ得る筈はない。
彼等の頭には先ず第一に僻《ひが》みが閃いた。
「またうめえこと云ってけつかる!」
で、一時も早くこの小づらの憎い侵入者を駆逐するために、
「おめえの世話にはなんねえぞーッ!」
と叫んだのであった。
彼等はもう、いわゆる親切は単に親切でないということを知っている。
貧乏はどれほど辛いかを知り、その両親へ対して生々しい愛情、一かたまりになって敵に当ろうとする一方の反抗心によって強められた、切なる同情を感じているのである。
朧気《おぼろげ》ながら、真の生活に触れようとしている彼等に比して、私の心は何という単純なことであろう! 何という臆病に、贅沢にふくれ上っていることであったろう!
私はまちがっていたのだ。彼等総ての貧しい人々の群に対して、自分は誤っていた。
私は親切ではあった。けれども幾分の自尊と彼等に対する侮蔑とを持っていたのである。そして、自分自身が彼等から離れ、遠のいた者であるのを思えば思うほど一種の安心と誇り――極く極く小さな気のつかないほどのものではあったが――を感じていたということを偽れようか?
自分を彼等よりは、立派だと思ったことは、ただの一度もなかったか?
もちろん、私は意識しながら傲慢な行為をするほど愚かな心事を持っているとは思わないけれども、長い間の習慣のようになって、理由のない卑
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