つや否や、私は反動的に身をねじ向けて見ると、まだすぐ近くの甚助の家の前に、子供等が犇《ひしめ》き合って立っている。
年上の子供は、私が振向くと、手に持っていた小石を振り上げて、威《おど》すように身振りをした。
私は、子供等の方を見ながらのろのろと杉の木蔭へ身を引きそばめて、二度目の襲撃を防ごうとした。
私は、手触りの荒い杉の太い幹につかまりながら、訳もなく大きな涙をポロポロとこぼしたのである。
三
「何ということだ!」
あのときの様子を思い出すと、私の顔はひとりでに真赤になった。なぜ私は、あれほどの恥辱を受けなければならなかったか? 私が彼等に対して云ったことが悪かったか? 私は確かに悪いことは云わなかったというよりほかはない。私は同情していたのだ。ほんとうに淋しいんだろうにと思っていたばかりだ。私にはちっとも嘘の心持はなかった。どこからどこまでも正直な気持でいたのではないか?
私にはどうしても彼等の心持が解せない。それ故あの罵りに対しての憤りはより強く深くなるばかりなのであった。
私は、お前方から指一本指される身じゃあない。
人が親切に云ってやったのに石までぶつけて、それで済むことなのか?
私はほんとにあの子供達が厭であった。そして、またいつものようにあのときのことがじき村の噂に上って小《ち》っぽけなおかしい自分が、泥だらけの百姓共の嘲笑の種に引っぱりまわされるのかと思うと、一思いに、あのこともあの子供達も一まとめにして、押し潰してしまいたいほどの心持がしたのである。御飯も食べられないほど私はくさくさした。
けれども、夕方近くなって、小作男の仁太というのが来て二時間近くも話して行ったことは、私に或る考えの緒口《いとぐち》を与えた。
彼は、私共の持畑――二里ほど先の村にある――に働いている貧しい小作男で、その男が来ればきっと願い事を持っていないことはないといわれているほど、困っているのである。
私は彼の衰えた体をながめ、もう何も彼も運だとあきらめているよりほかしようのないような話振りを聞くと、フト甚助のことを思い出した。
甚助はやはりこの仁太のような小作男だ。
ああ、ほんとに彼等はこんな気の毒な小作男の子供達であったのだ! この思いつきはだんだん私の心から種々の憤りやなにかを持ち去ってしまった。
けれども、後にはよく考
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