病菌とたたかう人々
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)「園内の子供たち[#「園内の子供たち」に傍点]」
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 いまはもう鹿児島県に入らない土地となった奄美大島の徳之島という島から十二歳の少女が収容船にのって国立癩療養所星塚敬愛園にはいって来た。十歳のとき発病して、小学校の尋常四年までしかいかなかった松山くにというその少女は、入園したときからもう病状が軽くなくて、あまり運動などもできず、いつも机に向って本をよんだり、作文をかいたりしていた。その作文は、療養所の発刊している『南風』にのって、療養所の人たちに愛読されていた。
 松山くにが十八歳になったとき、彼女は結核性脳炎にかかって、数日のわずらいで亡くなった。
 彼女には、「あの包み」といって大事にしている一つの包みがあった。その包みの中には、彼女が療養所生活の中であきずにかき綴った作文の帳面がいく冊かしまわれていた。自分が死んだあとでも、お国の近い井藤先生(看護婦)にたのんでおいて、一つでも包みからえらんで星塚の文学の本にのせてもらおう、と十八歳の彼
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