女は、もっとずっと年の小さい少女のような筆つきで「床の中」という題の文章のうちにかいている。
松山くにというその少女が短い生涯を終ってから四年たったとき、彼女の『春を待つ心』が出版された。そしてその桃色地に黄色い菜の花を描いた表紙の本が、いま、わたしたちの前にある。
川端康成氏の序文は、この写生文集の本質をよく語っている。松山くにという少女の素直さ、弾力のある感受性。だが「癩療養所という世間離れのために」「あるいは読書と教育との変則のために、この子は年相当の成長はしなかったのだろう」その子供のこころのまま生きた療養所の周囲の自然や人々の姿が『春を待つ心』の中に小さい子供の話のようにいきいきと動いていて、しかし全体とするとどこか客観的なつかみかたの足りない話しかたで書かれている。この少女にとって、療養所の生活が、精神年齢の成長をおくらせていたということは『春を待つ心』の「床の中」と「故郷を離れる」をよみくらべると、はっきりわかる。十二歳のとき書いた「故郷を離れる」の方が、十七八歳でかかれたものよりも生活的であり描写に現実の重量がある。
『春を待つ心』についての書評は、もうあちこちにの
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