が彼女の目前に拡った。畳が粗末な琉球表なので、余計のべたらに広く見えるのだ。それにしても、何という貧弱な有様だろう。房は、もう一年もこの室で暮したという志野が、よく我慢出来ると驚いた。壁は、ぼけてよく色も見分けられないようになった花模様の壁紙で張られているのだが、破れたところは破れぱなしであった。家具らしいものは何もない。小さい角火鉢のがさがさに荒れたのが、戸棚の前にぽつねんとあった。出がけに脱いで行った志野の綿ネルの寝間着が、衣紋竹に吊下っている。琴一面あるだけで、やっと住んでいるのが女だと察しがつく位の様子であった。――房はやがて、立ち上った。彼女は戸棚をあけると、バスケットの中から縮緬《ちりめん》の財布を出し、外に出かけた。
大露台の隅に、低い流しが据えつけてあった。上のところに二段棚が吊られ、自炊の台所となっている。房がそこで夕飯の仕度にとりかかっていると、ガタガタ下駄のまま階子《はしご》を昇って、志野が帰って来た。人なつこい心持に溢れ、前かけで手を拭きながら飛び出した房と顔を見合わせると、志野は、
「あら私、何だか変だわ、嬉しいみたいな、恥しいみたいな」
と笑い出した。
「
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