じゃ余り可哀そうよ」
やがて志野は、
「どれ、一寸私にいじらせて御覧なさい」
と、気軽に房の後に廻った。彼女は、器用に、長い、たっぷりした髪を梳き始めた。
「こんなにあるのに――私なら素敵な髪に結って見せるわ――髪の形で喫驚《びっくり》する程ひとって変るもんよ」
自分の毛筋立てや鬢かき迄持ち出し、志野は自分が結っているような洋髪に結い始めた。
「さ、これ持ってて」
彼女は、房に鏡を持たせた。一ところへ形をつけては、
「どう?」
と背後から顔を重ねて自分も鏡を覗きこんだ。
「いいじゃあないの、すっかり可愛くなっちゃうわ」
房は、好奇心の動く、一方、極りの悪そうな表情で云った。
「私の髪、どっさりあったって強《こわ》いから駄目よ、こんなの」
「結いつけないから、そりゃいきなり理想的には行かなくてよ。――まあ黙って見ていらっしゃい」
出来上るにつれ、房は大きい髪を持てあました。
「本当にいやあよ、私。私じゃあない人間みたいだわよ、これじゃ」
「どれ」
志野は、素ばしこく前に廻って検査した。
「そんなことあるもんですか! トテ、シャンになったわよ」
遊んでいると、階段を登って来る
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