コート、紋付袴の一団が現われた。真中に、つい先年首相であった老政治家が囲まれている。皆、酒気を帯び、上機嫌だ。主賓、いかにも程々に取巻かせて置くという態度。一寸離れて、空色裾模様の褄をとった芸者、二三人ずつかたまって伴をする。――芝居の園遊会じみた場面を作って通り過た。
 写真をとるという時、前列に踞《しゃが》んだ芸者が、裾を泥にしまいと気にして、度々居ずまいをなおした。頭のてっぺんが平べったいような、渋紙色の長面をした清浦子は、太白の羽織紐をだらりと中央に立っていたが、軈《やが》て後を向き、赤いダリアの花一輪つみとった。それを、「童女像」のように片手にもって、撮影された。

 一ときのざわめきが消えた。四辺は俄に夕暮らしい風情を増した。大東屋はいつかがらんと人気なく、肌つめたい秋の残照の中に、雁来紅の濃い色調、紫苑、穂に出た尾花など夜に入る前一息のあざやかさで浮上った。
 茂みの彼方で箒の音がしはじめた。楢の梢に白い夕月が懸った。――
[#地付き]〔一九二六年十一月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986
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