った。結婚した人と母の気質も到って不調和で、母が遂に家から出て行けと業を煮やしたのも、今日になってみれば無理ないことであったと思う。
子供時代からの本箱と敷いていた木綿の夜具だけをもって、私は両親の家を出た。
母は、父に向っても、娘に向っても、自分のうけた打撃はきびしく復さずには居れないたちで、又それをやった激しい気質の女性であるが、それは日常的な家庭生活の内でのことで、世間に向ってものを云う場合になると、その母でもやっぱり従来のありきたりの型に興味ある自分の性格をちぢこめ、あてはめて、娘や息子の愛のためには身をすてる女のように自身を語るのであった。そしてそう話しているときの自分の心には、偽りはなかったのであったろう。借金をしてまでの大望が娘によって裏切られた落胆についても、母はそれを率直にありのままは話さず、娘の大成のためには金銭をおしまず、堅忍をもって耐える母という風に道徳化して語った。それが又私の心に体の震えるような憎悪を呼び起すのであった。そういう矛盾は母の真情に対する同感をすっかり抱かせなくした。
母と私との生活が別々な軌道を持つようになってからは、母の文学的興味も一時
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