暮の街
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)涜職《とくしょく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三六年十二月〕
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 銀座の通りを歩いていたらば、一つの飾窓の前に人だかりがしている。近よって見るとそこには法廷に立っているお定の写真が掲げられているのであった。
 数日前には、前陸軍工廠長官夫人の虚栄心が、良人の涜職《とくしょく》問題をひきおこす動機となっているという発表によって、そのひとの化粧した写真が新聞に出た。
 それより前には、志賀暁子の嬰児遺棄致死罪についての公判記事が写真入りでのっており、又、解雇されたことを悲しんで省電に飛び込み自殺をしかけて片脚を失った少女の写真があった。新潟から身売娘が三十人一団となって上京した写真も目にのこっている。
 これらの写真にのぼされている女の生活の姿は、昨今歳暮気分に漲って、クリスマスのおくりものや、初春の晴着の並べられている街頭の装飾と、何という際立った対照をなしている事であろう。
 先頃前進座で「噛みついた娘」という現代諷刺喜劇が上演されて、好評を博
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