した。なかに新聞記者が記事作成の上に加えられる不便をかこった科白《せりふ》がある。日独協定のことについて、書かれるべき感想は更に多くあるのであろうが、お定の記事が、一等国の大新聞社会欄をあれほどの場面で占め得るということは、その一面に何を暗示しているのであろう。私共は、自分等の置かれている社会とその文化とは、果してかくも低い貧弱なものであるのかと、疑わずにはいられない。
 昔の武士は、女を社会的に軽く、従属的に扱った。しかしながら、この慣習は女を物件化したと同時に、女の影響によって男の行動が支配されたということは、男の側としてあるまじきことという戒律が厳存した。女子供という表現は、人格以前としての軽侮を示すとともに、男の被保護的な存在と見られていたのであった。様々の面で復古趣味が見られるが、武人とその妻との関係も、今日では女の虚栄心が良人の行為の教唆者或は責任者として押し出されているというまことに興味ある新例が、前工廠長官夫人の場合に示されたと思う。虚栄心は実際多くの大小不幸の源泉となって来ている。女の虚栄心の生む災害とは、金色夜叉のお宮以来、一番大衆の耳に入りやすい結びつきをもって通
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