テラ光らせ、剃りたての顎、長めな鼻の下へ小さく髭を立ててる。ミサ子が知っている限りの太田は、いつも同じ片づいた表情で、
「――どうです? この頃は」
と長火鉢の前へ座った。
「相変らず……」
「どうだね、一つミサ子さんの会社へでも雇って貰えまいかね」
嘘とも本当とも分らない表情でそう云いながら太田は朝日に火をつけた。
「私みたいなヘボからじゃだめよ」
「いくらでもいいよ。ほんとに! そう云ってみんなに頼むんだが、これでいざとなるとそうも行かないものと見えてなかなかないね」
一種の自負ありげに云うのがミサ子には気の毒だった。
「……二年は辛いわね、でも……」
「ああ。しかし、いろんな事業はやっていますよ。ボール・ベアリング、鉄の円い玉だが、カフス・ボタンやいろんなものにつかって銀ぐらいねうちのあるもの、あれの製造工場をやっているし……」
「儲かります?」
わきで紅茶をいれながら文子が、
「それどころじゃないのヨ!」
やりきれないという目顔をして見せた。
「今のところは、とてもそこまでは行きませんな。何しろ得意がああいうものはきまっているから、そこへ割込むのが大変だ」
ミサ子は、
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