たら、よそを肥やすより、うちをすけて貰えまいかしらと思って――」
 ミサ子が急場の返事に困って黙っていると、
「図々しすぎる?」
 文子は微《かすか》に顔を赧らめながら極りわるそうに笑った。
「そんなこと決してないわよ。……でも義兄さん承知なの?」
「承知するもしないもないじゃありませんか――。ミサちゃんだって楽じゃないでしょう? 自炊なんて簡単なようで面倒くさいもの……家にいりゃ台所へ立たせるようなことはしなくてよ」
 ミサ子が××○○会社からとっている月給は英文、邦文両方やって三十八円だった。そこから天引食券代五円、クラブ費親睦費とさしひかれる。間代を十円払うと、あと食べてエスペラントの月謝を出し、たまに映画でも見るのがやっとだった。
 何時になっても家へさえかえれば、炊いた御飯があるというだけでも、のんきになれる。だが――
「どうしようかしら……」
 ミサ子は首を振り振り返事に迷った。実のところ、ミサ子は姉夫婦のやってるような暮しの中へ引ずり込まれるのが厭だった。
 ハッキリ返事しないでいるうちに、
「ヤア」
と、太田がドテラに羽織という姿で帰って来た。
 濃い眉と眉との間をテラ
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