ん中軸から遠いところへと勤務を移され、昨年の秋不況と一緒にとうとうくび[#「くび」に傍点]になった。
 太田の亡父が知事で、二三軒の小さい貸家と今住んでいる地所家屋をのこして行った。それで、どうやらやっている訳だ。
 文子は、
「私この頃つくづくミサちゃんが羨しいわ」
と、しんかららしく云った。
「せめてお小遣いでも自分の力でとれたらどんなにいいでしょうね」
 わきに遊んでる子供たちに聞えないようにしながら文子は小声で、
「先月家賃のとれたのはたった一軒よ。お話にも何にもなりゃしない!」
 ミサ子は長火鉢の灰をかきながら、姉夫婦の生活に同情と歯痒さとを感じた。結婚当時は、僅かながら不動産もあるし、勤め先もいいしと楽観していたのだろう。けれど、世の中は決して一つところに止ってはいないのだ。
「こないだちょっとわけがあって価格評価をして貰って、私、全く先々どうなるんだろうと思ったわ。地面や家作なんてもう何の頼りにもなりゃしない。価《ね》じゃないのね」
 姉の相談は、ミサ子に同居してくれないかと云うのだった。
「恥かしいこったけれど、全く法がえしがつかないの。だからミサちゃんの都合さえよかっ
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