しづ子は、左翼劇場のことなどはよく知らないらしい。ぼんやり、柳からノートをうけとった。
「まとめて切符とると、やすくなるのよ。あなたの方で何枚いるか、はる子さんの手紙といっしょに希望者を集めて下さいね」
ミサ子は、左翼劇場へゆくときなんかはよく連立って出かける××商事の順子のことを思い出した。
「ね、それには、よそ[#「よそ」に傍点]のひと誘っちゃいけないかしら」
と柳にきいた。
「よそ[#「よそ」に傍点]のひとって……」
「私、××商事に友達がいるのよ。よく一緒に築地へなんか行ってるんだけれど、そんなひとまで入れちゃいけないものかしら……」
「いいわ!」
柳が、下膨れのゆったりした頬をぽーっと赧らめながら、
「とても歓迎よ!」
と力をこめて答えた。
「そのことも書いとこう! ね? れい子さん、この近所に勤めているお友達は誘っていいのよ」
柳は、しづ子からノートをとり戻してその注意を書き添えた。
「へ、じゃすみませんがこれをどうぞ」
はる子の慰問金を集めた経験から、××○○会社の女事務員たちはみんな廻状をまわしたりすることに大分馴れた。執務時間中、よその課のしづ子が入って来
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