ことだ。
「……どう思う? みんな」
 れい子は熱心に、
「庶務の連中をだんだんこういうことに慣らして何も云わせないようにするにもって来いだと思うんだけれど……」
と云った。
「――どうかしら……」
 しづ子が、はる子からの手紙を改めてひろげながら、
「でもね、これには一人一人お金出した人の名が並んでるのよ、はる子さんは律気だもんだから……」
「やっぱり、先《せん》のようにしてこれは廻しましょうよ」
 柳が決定的に云った。
「せっかくお金出したのに、あとあとまで睨まれたり、迷惑がったりする人があっちゃいけないもの……、今日しづ子さん、あなたの部だけまわしてしまえない?」
「さあ、やって見るわ」
「あしたは、れい子さんの方へまわしましょうよ、ね?」
 そして、柳は、
「そのとき、ちょっとこれもついでにまわしてよ」
と、窓枠へ紙を押しつけて、手早く一枚の短いノートを書いた。
「なんなの?」
 書いている肩越しに覗き込みながられい子が、
「あら、本当?」
と嬉しそうな声を出した。
「私早速申込もうっ、と!」
「なに、なに」
「この次の左翼劇場へ団体で見物に行けるんですってさ」
「へえ……」

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