「お早う……ひとり?」
 柳はきのうのことは何にも云わず、ごくあたりまえに、
「おひるにまた誘ってね」
と云った。

        十四

 三十三円六十八銭也。それだけが××○○会社の中で、はる子の慰問金としてあつまった。一番親しく行き来しているしづ子がそれをはる子の家へ届ける役に当った。
 二日ばかりしてはる子から心のこもった礼状が慰問金を出した女事務員一同宛に来た。例の洗面所でその手紙をとりついだしづ子が、
「……これ……お金出してくれた人たちに一わたり見せなきゃいけないわねえ」
と柳に相談をもちかけた。
「そりゃそうね」
「こうしちゃどうでしょう」
 わきかられい子が云った。
「私達がこんなことしているの、どうせ社内の人たちには知れているんだし、きっと沖本にだって分ってると思うわ。お金出してくれた人たちは、どっちみち大抵二十銭階級なんだからいっそおひる[#「おひる」に傍点]に食堂へはる子さんからの手紙を貼り出しちゃったらどうかしら――」
 ミサ子は、緊張した期待で柳の返事をまった。これまで××○○会社の食堂にそんな社員から社員への呼びかけが貼られたことなんぞ一遍もなかった
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