の女の生きかたというものが、やっと腹にはいって来た。××○○会社の女事務員という現在の社会での自分の身分と、自分たち働いて食って行かなければならない女として一人一人が胸にもっている不平不満、希望とをつき合わして見れば、実質のない澄しかたなどしておれない。自分がつまりプロレタリアの一人の女だということがだんだんはっきり分ってミサ子はこの頃腰のすわった、闘いの対手がわかった確《しっ》かりした心になっているのであった。
 洗濯物を洗面器へ入れてもって上り二階の自分の窓前の細い竹竿にかけていると、下で、
「今日は……」
という声がする。小母さんがいないと見えまた、
「――こんにちは……」
 ミサ子は、いそいで玄関へ下りて行った。
「いたのね、よかった!」
 格子の外に柳と思いがけない坂田とが顔を並べて立っている。赤と藍の細かい縞の割烹前掛姿のミサ子は、
「まあ……」
 栓をとって格子を開けた。
「どっかへ出かける?」
「いいえ! さ、上って下さい」
 柳はちょいちょい遊びに来たが、坂田は初めてだ。二階へあがると帽子を畳へ放り出しておいて窓の前に立ち、外の景色を眺めた。
「なかなかいいじゃないで
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