ら!」
サワ子が癇のたった声で云った。
太田千鶴子に対する漠然とした共通な反感が微妙に働いてもとからいた××○○会社の女事務員たちの心持を一つにまとめるきっかけ[#「きっかけ」に傍点]となっているのがミサ子にさえ、はっきり感じられた。はる子の慰問金あつめの仕事が、太田の来てからの方がやり易くなったのでもそれは分る。――
間もない或る日曜日、ミサ子は下宿の水口の外へ盥《たらい》をもち出し、勢よく肌襦袢の洗濯をやっていた。
一週間朝から夕方まで丸の内のオフィス・ビルディングの中で、コンクリート床を擦る靴音、壁に反響するタイプライタアの響にのまれて暮していると、塵の少ない休日は閑散な空気の工合まで肌ざわりが違うように感じられる。
水口のわきにあらい竹垣があって、そこに山吹の幹が荒ッぽく繩でくくられている。ざぶ、ざぶ濯いではその水をミサ子は山吹の根元の小溝へあける。
牛込の姉の暮しが心に浮んだ。同居の話を断ったのは、気の毒のようだがよかったと思った。
ミサ子も姉の文子も同じ生れではあるが、こういう激しい世の中にあって、生きる態度は別々であった。ミサ子にはこの頃自分たち小ブルジョア
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