捨するよ。その代りよく僕の名をつけといてくれね。僕がクビんなったら大いに小野救済カンパを起してもらうから……」
 大体女事務員たちのやることだ、と下目に見た態度がみんなにある。ワイシャツのカフスを引こめながら軽蔑した口つきで、
「僕は知らんね。会社の責任だろう。こんなことは――」
と云う者もある。社員の間で言葉数は多いが金の方は思ったより集まらない。
 顔を合わせると、ミサ子もれい子も、
「男のひと達、始めっから出す気がないんだもの」
と、感想は一つだった。
「五十銭や一円、カフェーへ一足よったと思えば何でもないのにねえ」
 女事務員連ではる子の事件をよく知っているものは真実わが身にひき添えた同情を示した。
「私ほんとはもっともっとしたいんですけれど、実は去年からストップなのよ。あしからずね」
 そう云えばミサ子や柳にしろ、一昨年頃から月給はちっとも上らないままだ。
「私、はる子さんてひと、よく知らないんだけど……」
と、まわりの振り合いを女らしく考え、それだけで出すものもある。
 然し、どっちにしろ、××○○会社の内部ではあっちこっち働いている課の違う女事務員達の間に、廻状をまわすだ
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