なった。
昼休みに地下室の食堂で、隅の方の長|卓子《テーブル》にかたまっている給仕連のところへ行ってミサ子とれい子とが云った。
「はる子さん、クビになったのよ、いよいよ。あんなにいい人だったのに病気してるし、本当にお気の毒だから、私たち慰問してあげようと思うの。お出しなさいよ、二銭でも一銭でもいいわ、気は心だから……」
「――へえ。じゃ僕大枚五銭!」
「おい須田君、電車賃かしてくれるかい? かす約束してくれたら十銭出すぜ僕」
「じゃ、これ」
一円二三十銭集った。だが、男の社員たちのところへ勧誘に行くと、ミサ子は一種の腹立たしさを感じた。多くの者ははる子の首切りにも慰問金募集にも極めて冷淡だ。ミサ子がさし出す勧誘状を手にも取らず、椅子へ腰をずりこましてかけたまま読んで、大町という社員は、
「ふーむ、こりゃ誰が書いたんだい? なかなか文章家じゃないか。ちょいとほろりとさせる効果があるぜ。さすが女だね」
と云った。
「どれ、どれ」
眼をせばめてわざとらしく煙草の煙をさけながら、別の一人が、
「――佐田って……この女亭主持だろう?」
「とんだカンパがはじまったもんだな。じゃバット一箱分喜
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