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│知識労働者の一日所要カロリーは二千三百です│
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表のわきにこう書いてある。誰もそれを見ていい心持はしなかった。それだけ食えたら黙っていろ、というような押しつけがましい感じなのだ。
近頃、その地下食堂の食事がわるい続きだ。こないだはる子が悪いという噂があった頃から、ミサ子たち一団の女事務員連中が「モーリ」へ出かけるのは、今日では五遍目になる。
「ね、ちょっと! 馬鹿にしてるわね、蒟蒻《こんにゃく》と人参のお煮つけが、何千カロリーあるってんでしょう!」
しづ子が、「モーリ」の小さい丸い腰かけの上で窮屈そうに袂をかき合わせながら小声で腹立たしそうに云った。
「……でも狡いわ。見てて御覧なさい、あのカロリー表にはっきり書いてない材料ばっかりつかっているから」
れい子が、穏やかな、けれども飾りけない口調で、
「大抵のとき、マアあの調子じゃ八百から九百カロリーがせいぜいね」と云った。
「私たちの二十銭から毎日何百カロリーかずつ儲けさせているんだから大きいもんだ」
支那そば[#「そば」
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