のよ、でもそれは表むきでね、はる子さんのとこへ手紙か何か会社から行ったらしいわ」
とよ子の話によると、はる子の病気は邦文タイプを打つ以上一旦なおってもまたすぐわるくなるから、この際、もっと健康に適した職業にかわることを会社から勧告して来たというのだ。
十
××○○会社では食堂が地下室と二階と、ふたところに分れてあった。
二階の食堂の方は日に一円の賄をたべる連中ので、地下室は、ミサ子たちのような女事務員や給仕をはじめ、月給百五六十円までぐらいの社員達のためだ。上と下とでは階級がはっきり分れ、身なりも違った。上の食堂なんか見たことのないものが、地下室の細長いテーブルに向って、せかせか朝飯ぬきの昼をたべた。
その地下室の食堂の白い壁に、食物のカロリーを表に書いた厚紙が貼ってあった。大体、幸楽軒の請負経営にはこれまでもみんな不満で、不平が絶えない。カロリー表が貼り出された当時、男の社員たちは、片手をポケットへ突こんでその表を見上げながら、
「オイ、冗談じゃないぜ! これから鰊《にしん》と大豆ばっかり食わされるんじゃないか。科学もこうなっちゃ侘しいね」
と云った。
前へ
次へ
全74ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング