#「くせ」に傍点]してねえ!」
この頃の不景気につれて、会社ばかりでなくいろんな工場でも、男より賃銀のやすい女をドシドシ使うようになって来た。しかも家持ちの、年数の古い女は、能率があがらないと云ってクビにする。その代りに小学を出たばっかりぐらいの若い娘を、モットやすい賃銀で雇って仕込む。
「私んとこの下の小母さんの親類でも、そういうわけで二人もクビんなったわ、ついこの頃」
柳の話をみんな黙ってきいていたが、れい子がしんみりと云った。
「――大きなビルディングの中にいるというだけで、私たちだって女工さんだって違いありゃしないのねえ。知識労働だなんていい気になってるだけ滑稽みたいなもんだわ」
ミサ子は××○○会社の女事務員たちの心持が一部ではあるがこんなに揃ってズーッと引緊ったのははじめてだと思った。
ぞろぞろ食堂の方へ行くと、地下室の階段を下から食事をすました益本があがって来ながら、ミサ子たちの一団を見ると、
「ダメよ! 今日は!」
と大きな声で云った。
「ゴボーに竹輪ブよ」
「どうする?」
「どうする?」
地下室の下り口で停滞してしまった。
「……われら[#「われら」に傍点]
前へ
次へ
全74ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング